もし仮にあなたが亡くなったとしたら、残されたご遺族は相続財産をすべて把握できるでしょうか?

逆の場合も同様です。例えば親御さんが亡くなったら、どのような財産を遺されたのか分かるでしょうか?

相続手続きの中でも、「相続財産が分からない」というのは珍しくないトラブルです。亡くなった方の預金も保有する不動産も、さらには借金に至るまで、こと細かに把握している方がむしろ稀ではないでしょうか。
しかし相続手続きを進める上では、相続財産を確定することは必須の作業です。
遺産分割や相続税申告などの手続きも、相続財産が明確に分からなければ進めようがないからです。

エンディングノートとは?

人生の終焉を迎えるに備えて、例えば葬儀などに関するご自身の希望や、残された家族が必要とする情報を記しておくのが「エンディングノート」です。

遺言のように明確な定義があるわけではないため、必要な情報に留まらず、思ったことを自由に記述できるノートです。

遺言とエンディングノートの違い

遺族に対して相続に関する故人の遺志を伝える方法としては、遺言という方法があります。遺言は法的拘束力を持つ手続きで、作成の方法や記載内容も厳格に規定されています。

法的拘束力を持つということは、遺産の分配などは遺言に従わなければならないことを意味しています。

一方、エンディングノートには作成に関する規定や法的拘束力はありません。遺言書とは異なり、ご自身の希望や家族に対する感謝の気持ちなども自由に記すことができます。

そこに書き留めておきたいのが、「亡くなった後に遺族が必要とする情報」です。相続に関する情報もその1つ。

どのような財産を遺したのかを遺族が調べるのは、いささか骨の折れる作業になるからです。

亡くなった方の財産を調べるのはとても困難

相続手続きでは、亡くなった方の財産をくまなく調べる必要が生じます。でも実は、これはかなり大変な仕事です。

相続手続きに際しては、預金や現金、不動産などプラスの財産はもちろん、ローンなどの負債、つまりマイナスの財産までを正確に把握しなければなりません。万が一調査に漏れがあれば、トラブルに発展する恐れも否めません。

特に昨今では、ネット銀行やネット証券など「インターネット上にしか痕跡が残らず、IDやパスワードが分からなければアクセスができない」金融機関などが多数存在し、相続における財産調査をより難しくしています。

エンディングノートを活用すれば、相続人が手続きを進めるに際して知っておかなければならない情報を、スムースに共有することができるのです。

故人の財産の調べ方

故人の財産を調べるには、預金通帳や郵便物、パソコンやスマートフォンなどの情報を集め、それぞれを紐づけていくのが基本です。

不動産であれば登記識別情報通知や権利証を、さらには自治体で固定資産税の課税台帳を調べます。

一方、ローンなどの負債に関しては、個人信用情報などが手掛かりになります。

このように、単に「故人の財産を調べる」といっても、さまざまな知識が必要とされ、多くの時間と労力が掛かるのです。

財産調査の猶予は3カ月

故人の財産を調査することは一筋縄ではいかないものですが、さらにこれには時間的な制限も加わります。相続が発生したら、3カ月以内に「すべての財産を相続をするか放棄するか、もしくは限定承認(資産から負債を差し引いて、プラスがあれば相続する)か」を選択しなければならないからです。

この期限を過ぎれば、相続放棄は認められません。

このようなトラブルを回避するためには、ご本人の生前に財産に関する情報をしっかりと聞いておくことが大切なのです。

エンディングノートに書いておきたい項目

エンディングノートの書式や内容に決まりはありません。相続に関する情報だけでなく、これからの人生や葬儀に関する希望なども含め自由に書き留めておけます。

それに加え、亡くなった後に遺族が必要になる情報を記載しておくと良いでしょう。そのうちの1つが、相続財産に関する情報です。

遺言書の有無

相続手続きで真っ先に必要になる情報が、「遺言書の有無」です。

遺言は法的拘束力を持つ書類で、遺言書が存在する場合には原則それに従って遺産分割などの手続きを進めなければなりません。

しかし、せっかく被相続人が遺言を記していたとしても、相続人がそれを見つけられない可能性も否定できません。
エンディングノートに「遺言を作成していること」「遺言書の保管場所」を記しておけば、そのようなトラブルを未然に防ぐことができます。

遺言には公正証書遺言・自筆証書遺言・秘密証書遺言という3種類があります。相続手続きに際してとても重要な意味を持つ書類なので、こちらは項を改めて詳しくご説明します。

財産を一覧にしたリスト

遺族が相続財産を正確に把握できるよう、預金のある銀行や不動産の所在、株式などの有価証券、加入している保険など、すべてをリストアップしておきましょう。

財産の再確認は、相続人を煩わせないためのものだけではありません。これからの生活を資金計画を見直す上でも、とても重要です。

例えば病気やケガで不測の支出が生じるリスクなどを考慮しても、ご自身の財産を改めて把握しておくことは大きな意味を持ちます。

インターネット上に開設した銀行口座や証券口座などのIDやパスワードを記しておくことも大切です。

ローンなど、マイナスの財産の有無

借入金やローンなど、いわゆる「負債」もしっかりと記しておきましょう。

本人の借入だけでなく、「誰かの連帯保証人になっている」などの情報も大切です。これも保証債務という、相続の対象となるマイナスの財産だからです。

定期購入している商品や加入しているサービス、いわゆるサブスクリプションについても記しておくと安心です。

友人・知人の連絡先

親交がある方、旧知の友人などの連絡先も、できるだけ一覧にしておきたい情報です。

訃報を送る際にも、滞りなく連絡がいく可能性が高まるとともに、家族の負担も軽くすることができます。

家族に伝えたい介護や葬儀の希望

そもそも「終活」とは、人生の終焉にまっすぐに向き合い、「どのような終わり方を迎えたいか」を見つめなおす取り組みです。それをエンディングノートに記すことでご自身の思いを再確認するとともに、ご家族に気持ちを伝えることができます。

医療や介護、さらには亡くなった後の葬儀やお墓に関する希望なども書き留めておくとよいでしょう。

医療や介護に関する希望

医療や介護に対する考え方も人それぞれです。「施設に入って介護を受けたい」と考える人もいれば、「住み慣れた自宅で最後を迎えたい」という人もいるでしょう。
そのような希望を再確認しつつ心の中で整理するためにも、それを家族に伝えるためにも、エンディングノートが適しています。

葬儀やお墓に関する希望

葬儀や埋葬に関する希望も、人によってこだわりが大きく異なるものです。

特に近年では、葬儀の規模や形式もさまざまです。「近親者だけで送ってほしい」「お世話になった方を招いて盛大に送ってほしい」など、ある程度の希望を伝えておくとよいでしょう。

お墓についても同様です。

菩提寺があればその情報、なければ「どのような場所、どのような形式で埋葬してほしい」などの希望を伝えておくことも大切です。

ご家族に対する感謝

エンディングノートは「自由に記すもの」ですから、伝えるべき情報を書くだけではありません。家族に対する感謝の気持ちや、伝えたい思いを記しておきましょう。

この「家族に対する気持ち」は、遺言に記すことができないものです。エンディングノートの役割の中でも、特に重要な意味を持つものかもしれません。

エンディングノートのすすめ

そろそろ相続のことを考えなければと思っても、遺言の作成に躊躇される方も少なくないでしょう。このような場面で有効な方法の1つがエンディングノートです。

例えば親御さんに対して、いきなり遺言書の作成をお願いするのはハードルが高いかもしれません。ですがエンディングノートであれば、本人の希望を家族で共有するという意味でも役立ちます。

エンディングノートは、「本人の希望の尊重につながる」「家族の負担軽減につながる」という2つのメリットがあるのです。

一度は書き記したものの、時間とともに気持ちが変化することもあるでしょう。遺言ではありませんから、何度書き直しても問題ありません。

終活の第一歩として、ご自身の希望を見つめなおす機会として、エンディングノートが役に立つと思います。